2014年11月27日木曜日

電気抵抗ゼロという研究者の夢が自らを鍛え、次世代に受け継がれていく – 水木 純一郎 教授

電気抵抗ゼロという研究者の夢が自らを鍛え、次世代に受け継がれていく 

水木 純一郎 教授


日本の街で空を見上げれば、目に入るのは縦横無尽に張り巡らされた電線。実は、あれらの電線が「抵抗」を持つため、流れる電気エネルギーの約4%は熱として失われてしまっています。14347ペタジュール〔ペタ=1015〕にも及ぶ日本国内の年間消費電力のうちの4%、これはじつに1,500万世帯を超える一般家庭の消費電力に相当します。


電気抵抗ゼロ

1911年、水銀が-269℃以下で電気抵抗ゼロになるという現象が発見されました。いわゆる超伝導と呼ばれるものです。物理の授業で習うように、電流とは電子(e-:フェルミ粒子)の流れであり、その際の「流れにくさ」を抵抗といいます。では、抵抗がゼロとは、どういう状態なのでしょうか。1957年に提唱された理論によると、本来反発するはずの電子同士がペアをつくり、ボーズ粒子になると考えられています。電子は、我々の目に見える日常生活の世界には現れてこない量子力学の世界で理解しなければなりませんが、超伝導は日常的なスケールで量子力学が発現した状態と言えます。ですから非常に稀な不思議な現象です。
しかし、ペアになるには、電子が反発する状態から、引き合う状態へ変化する必要があります。水木教授は、その時の原子や電子のふるまいを、ナノレベルで「見る」ことで、そのメカニズムを解き明かそうとしています。

原子をナノレベルで見る装置「SPring-8」とオリジナル結晶

ナノレベルでの観測を実現するのが、水木教授自身が立ち上げから関わる世界的研究施設「超放射光施設 SPring-8」です。関学とも連携協定を結び、水木教授は研究室の学生とともに泊まりこみで研究に取り組みます。SPring-8では、原子の結合距離である0.1nmより短い波長の電磁波(X線)を利用することで、原子や電子がわずかに吸収したX線のエネルギーを測定し、材料を構成する原子や電子の振動の方向やエネルギー、運動量などの状態変化を観測することができます。
研究の材料としては、1986年に発見された高温超伝導体である銅酸化物を対象にしています。この材料は、酸化物ですので普通は電気を通さない絶縁体なのですが、ある不純物を導入することで超伝導が出現し、しかも超伝導になる温度が-120℃というこれまでにないとても高い温度であるものが発見されました。実験には原子が規則正しく並んだ状態である「単結晶」を使います。水木教授は、超伝導状態をより詳しく知るために、この結晶にある工夫をこらしました。用いたのは、超伝導材料の中でも、ストロンチウム(Sr)の濃度によって超伝導現象が起こる温度が変わる「ランタン・ストロンチウム銅酸化物」。具体的には、端から端まででSrの濃度が徐々に変化する3cm程度の棒状のものです。徐々に濃度を変えたことで、Sr濃度の低いところは絶縁体、濃度が高くなると超伝導体、高過ぎると普通の電導体(金属)になる、とひとつの材料ですべての状態が見られます。

一般的に知られていた仮説を明らかにした初めての実験

銅酸化物超伝導体ではあまりにも超伝導になる温度が高いので、格子振動は超伝導には関係しないと考えられていました。ところが実験してみたところ、Sr濃度が高くなると、銅(Cu)と酸素(O)がつくる格子の振動エネルギーが小さくなる現象(ソフト化)が見えてきました。さらにそれだけでなく、超伝導が起こっている部分では、異常にソフト化していることもわかりました。一般的に、「格子振動のエネルギーの大きさが、電子同士がペアになる引力に影響する」ということが仮説として知られていますが、この結果はまさにそのことを示唆するものでした。こうして、格子振動と超伝導現象との関係を、世界で初めて実験で示すことができました。
しかし、まだ高温超伝導の発現機構が解明されたわけではありません。このメカニズムを解明し、それを設計指針として少しでも高い温度での超伝導になる新物質を創製し、やがて常温で実現できれば大きな送電ロスを減らすことができるのです。

他人のため、社会のために自らを鍛えよ

中学、高校、大学と生粋の関学出身者である水木教授は、その後海外へ渡ります。カナダ、アメリカでの研究生活を振返り、「とにかく論文を出して業績をアピールし続けないといけない。本当に毎日必死でした。」と語ります。そして、日本に戻り、民間企業の基礎研究所を経てそれまでの経験が評価され、SPring-8設立のグループリーダーに抜擢されたのです。
自身の経験を後世に役立てたいと母校へ戻り、今は学生とともに最先端の研究を世界と競争しています。学生らは、「現地の研究者と一緒にやりますので、その目線の高さに大きな刺激を受けるようです」。その成果も徐々に実り始め、著名な雑誌に論文を出すことも増えてきました。
「自分が得意とするものを見つけて伸ばし、その道の一流になること。そして他人や社会のために何ができるかを考え続けて欲しい。一流にならなければ真に世の中の役に立つ人間にはなれません」。この「Mastery for Service」の精神が、成長した学生から次の学生へと受け継がれていくことでしょう。
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